2009/07/14 (Tue) 03:44
ひさびさの更新です。
読んでいただける方に、楽しんでいただければ、是幸い。
太公望と竜吉公主の、ゆったりとした宵の話蓬莱夜曲・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「酒宴じゃ、公主。」
「酒宴?」
封神計画が「終わり」を告げて、もう何年経ったかもわからなくなった。かつて共に蓬莱に来た仙道の中にも、神界へ旅立った者が、何人かいる。わが身がそこへ行くのはあとどれほどのことか、などと竜吉公主がとめどなく考えていると、蓬莱のあらゆるところで「お尋ね者」と書かれた顔が目の前に現れた。そしてその顔の持ち主は、お尋ね者などと呼ばれている事実を知ってか知らずか、そう言ったのである。
「・・・久しいのう。どうしたのじゃ、急に」
「ほれ」
ぐい、と彼が差し出した手を見れば、豊満と書かれた桃の入った小さい籠。
「…これは?口止め料かえ?」
「ただ酒宴をしようというだけで、そんなわけなかろう」
「…」
真意が読めずに彼の眼を見るが、彼の眼は相変わらず茫洋としているだけだ。心なしか、その色は昔より闇に近づいている気がする。それは彼がもとからの「太公望」ではなくなったからだろうか。
「…待っておれ。」
奥から小刀を出し、するすると桃を剥いていく。 種をとり、白磁の小皿に8等分して盛り付ける。 仕上げに銀の小串を2本。
「これでは、酒とは思えんではないか」
いつも丸かじりしている彼には、物足りなく感じるようだ。
「これでよいじゃろ。崑崙の洞よりは手狭じゃが、まあここなら見つかることもないであろ。ゆっくりしてゆくがよい」
「む。かたじけないのう。では、始めるとするか」
そういって伏羲は洞の入口にどかっと座り、さっそく桃を何切れか串刺しにして口に放り込む。
公主もとなりに腰掛け、桃の切れ端をかじる。
まくまくと桃を食らう太公望。彼の桃好きは仙界で会ってからというもの一向に変わる気配がない。
「・・おぬし、よく飽きぬな。まさか、計画が終わってからも桃を食べて酔っているのではあるまいのう?・・・仙桃は、下界では採れぬと聞いたがのう」
また次の桃を放り込もうとした手をとめて、太公望はにやりと笑った。
「ふふ。実はのう。仙桃の種を品種改良して、老子の住んでおった桃源郷で栽培するのに成功したのだ!今ではこのとーり、100年に一度とよばれる豊満まで作れる腕前じゃ!かーっかっかっ」
・・・成る程、そういえば計画も100年ほど前だったかもしれない。その間彼は緻密に張り巡らされた捜索網をかいくぐり、仙桃栽培に精を出していたというわけか。あきれないでもないが、とすると、
「この豊満は、人間界で初めて採れた豊満、という訳じゃな」
「うむ」
そうやって答える彼の顔はいつになく自慢げである。計画の中で彼がそんな顔をしたことは、彼女の記憶の限り無かった。
「美味じゃのう」
「ふふふふ、そうであろう。秘訣はこの育毛ざ・・」
「ということはやはりおぬし、下界で毎日桃を食べては酔っ払っていたのじゃな」
「うっ・・・酒乱である訳もなし、良かろうが。封神計画の仕事の打ち上げじゃ打ち上げ」
「計画が終わってもう何度干支が回ったかのう?」
「そんなもん知らぬ、知らーぬ。 わしはわしの休みたい分だけ休むのだ。ゆくゆくは、老子のヤツの100倍の丈夫さと、快適さをもった怠惰スーツハイパーを開発し、究極の怠けを生み出すのだ!」
実は彼が酒を飲んで起こしたアクシデントの類はたびたび聞いた事があるが(たこになったり腹を下したり)、まあそこは気にしないでおこうか。仙桃も、体内で水に戻るのだ。
「全く、こちらでは教主が七転八倒しておるというのに。策のひとつでも授けてやればよいものを」
「いやだ」
「・・・相変わらず意地が悪いのう、太公望」
「意地が悪いのではない。子を突き落とす獅子のようだと言うのだ」
どうだかのう、と言おうとして、そういうことにしておくか、と公主は思い直した。
「ところで最近、人間界のほうはどうなのじゃ?蓬莱にいると、疎くなってしまうでのう」
ふと気になって聞いてみると、彼はすこし首を上に向けて答えた。
「そうだのう・・そろそろ、群雄割拠の時代が始まるであろうな」
「そうか。早いのう」
人の世のうつりかわりなど、自分達の体感時間からすればあっという間の出来事だ。
「・・最近よく、聞仲を思い出すのだ。あのときわしはあやつを老いたと言ったが、こんどはわしが老いたことになってしまった」
「ふふ、そうだのう」
「そこは笑いどころではないぞ!」
「そうは言うが、おぬし、最初の人ではなかったのかえ?」
「あ、そうであった」
「・・・今こうして話しておる太公望、おぬしはまだまだ、ひよっこじゃがのう」
「どういう意味だ、公主」
答えずに、ころころと公主は笑った。
「・・まあ、たしかにそうだ。わしのなかには王奕の記憶もあれば、王天君の記憶、伏羲の記憶もある。だがのう、公主。一番あざやかなのは、太公望の記憶なのだ」
また桃を口に放り込んで彼は言う。
「わかっておるよ」
そういって公主も一口桃をかじる。
太公望が無類の桃好きになったのは、崑崙に入山してからだという。羌族討伐を生き残り、入山するまで何も食べず腹を空かしていた太公望に崑崙で初めて出された食事が桃だったのだ。
それが伏羲になっても残っているのだから、そういうことなのだろう。
「して、太公望。おぬし、何故戻ってきたのじゃ?仙桃とて採れるのであろう。」
「おぬしに会いに来た。それだけでは足りぬか?」
「そういうわけではないが・・」
珍しく戸惑いを見せる公主から、蓬莱に広がる夜空へ目を移す。
「月を見ようと思ってのう。」
「人間界におるとき、時折思っておったのだ。そういえばわしは蓬莱で月を見ることがなかった。蓬莱でも月は出るか、人間界や仙界、地球のように見えるのか、それともまた違う月か、とのう。」
「・・・それならそうと、もっと前に来てもよさそうなものを。」
「だから言ったであろう?栽培にいそがしかったのだ。それに」
ふと彼が言いよどむ。
「はじめの年に出来た豊満はおぬしと食べる。そう決めておったのだ・・みなまで言わすな、だあほ」
公主は一瞬きょとん、として、またいつもの微笑みに戻った。
「そうか。すまぬな。」
「うむ」
「とても美味じゃ。ありがとう。」
そう言うと彼はすこし照れたようで、蓬莱に浮かぶ月を探しはじめた。
「月はみえぬのかのう」
「月は・・ほら、あそこじゃ」
「おお。なんだ人間界より小さいではないか。・・・だがこれはこれでいいものよのう」
「そうじゃのう。・・また、見にくるがよい」
「うむ」
「また、豊満の実る頃」
どちらともなく、そういうことにした。
それまで、しばらくは蓬莱にとどまって居たいものだ。
太公望を見送った公主は、小皿と串を手に取った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
太公望と竜吉公主の関係が好きです。
太公望にとって他の仲間とは少し違う感覚で話せる相手だといいなあと。
この話を読む限り酒飲んでるというよりは茶飲み友達ですが。笑
恋愛と呼べるものではないけど情がある、尊重がある、そういう、なんかいい関係、だと思ってます。勝手に。
読んでいただける方に、楽しんでいただければ、是幸い。
太公望と竜吉公主の、ゆったりとした宵の話蓬莱夜曲・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「酒宴じゃ、公主。」
「酒宴?」
封神計画が「終わり」を告げて、もう何年経ったかもわからなくなった。かつて共に蓬莱に来た仙道の中にも、神界へ旅立った者が、何人かいる。わが身がそこへ行くのはあとどれほどのことか、などと竜吉公主がとめどなく考えていると、蓬莱のあらゆるところで「お尋ね者」と書かれた顔が目の前に現れた。そしてその顔の持ち主は、お尋ね者などと呼ばれている事実を知ってか知らずか、そう言ったのである。
「・・・久しいのう。どうしたのじゃ、急に」
「ほれ」
ぐい、と彼が差し出した手を見れば、豊満と書かれた桃の入った小さい籠。
「…これは?口止め料かえ?」
「ただ酒宴をしようというだけで、そんなわけなかろう」
「…」
真意が読めずに彼の眼を見るが、彼の眼は相変わらず茫洋としているだけだ。心なしか、その色は昔より闇に近づいている気がする。それは彼がもとからの「太公望」ではなくなったからだろうか。
「…待っておれ。」
奥から小刀を出し、するすると桃を剥いていく。 種をとり、白磁の小皿に8等分して盛り付ける。 仕上げに銀の小串を2本。
「これでは、酒とは思えんではないか」
いつも丸かじりしている彼には、物足りなく感じるようだ。
「これでよいじゃろ。崑崙の洞よりは手狭じゃが、まあここなら見つかることもないであろ。ゆっくりしてゆくがよい」
「む。かたじけないのう。では、始めるとするか」
そういって伏羲は洞の入口にどかっと座り、さっそく桃を何切れか串刺しにして口に放り込む。
公主もとなりに腰掛け、桃の切れ端をかじる。
まくまくと桃を食らう太公望。彼の桃好きは仙界で会ってからというもの一向に変わる気配がない。
「・・おぬし、よく飽きぬな。まさか、計画が終わってからも桃を食べて酔っているのではあるまいのう?・・・仙桃は、下界では採れぬと聞いたがのう」
また次の桃を放り込もうとした手をとめて、太公望はにやりと笑った。
「ふふ。実はのう。仙桃の種を品種改良して、老子の住んでおった桃源郷で栽培するのに成功したのだ!今ではこのとーり、100年に一度とよばれる豊満まで作れる腕前じゃ!かーっかっかっ」
・・・成る程、そういえば計画も100年ほど前だったかもしれない。その間彼は緻密に張り巡らされた捜索網をかいくぐり、仙桃栽培に精を出していたというわけか。あきれないでもないが、とすると、
「この豊満は、人間界で初めて採れた豊満、という訳じゃな」
「うむ」
そうやって答える彼の顔はいつになく自慢げである。計画の中で彼がそんな顔をしたことは、彼女の記憶の限り無かった。
「美味じゃのう」
「ふふふふ、そうであろう。秘訣はこの育毛ざ・・」
「ということはやはりおぬし、下界で毎日桃を食べては酔っ払っていたのじゃな」
「うっ・・・酒乱である訳もなし、良かろうが。封神計画の仕事の打ち上げじゃ打ち上げ」
「計画が終わってもう何度干支が回ったかのう?」
「そんなもん知らぬ、知らーぬ。 わしはわしの休みたい分だけ休むのだ。ゆくゆくは、老子のヤツの100倍の丈夫さと、快適さをもった怠惰スーツハイパーを開発し、究極の怠けを生み出すのだ!」
実は彼が酒を飲んで起こしたアクシデントの類はたびたび聞いた事があるが(たこになったり腹を下したり)、まあそこは気にしないでおこうか。仙桃も、体内で水に戻るのだ。
「全く、こちらでは教主が七転八倒しておるというのに。策のひとつでも授けてやればよいものを」
「いやだ」
「・・・相変わらず意地が悪いのう、太公望」
「意地が悪いのではない。子を突き落とす獅子のようだと言うのだ」
どうだかのう、と言おうとして、そういうことにしておくか、と公主は思い直した。
「ところで最近、人間界のほうはどうなのじゃ?蓬莱にいると、疎くなってしまうでのう」
ふと気になって聞いてみると、彼はすこし首を上に向けて答えた。
「そうだのう・・そろそろ、群雄割拠の時代が始まるであろうな」
「そうか。早いのう」
人の世のうつりかわりなど、自分達の体感時間からすればあっという間の出来事だ。
「・・最近よく、聞仲を思い出すのだ。あのときわしはあやつを老いたと言ったが、こんどはわしが老いたことになってしまった」
「ふふ、そうだのう」
「そこは笑いどころではないぞ!」
「そうは言うが、おぬし、最初の人ではなかったのかえ?」
「あ、そうであった」
「・・・今こうして話しておる太公望、おぬしはまだまだ、ひよっこじゃがのう」
「どういう意味だ、公主」
答えずに、ころころと公主は笑った。
「・・まあ、たしかにそうだ。わしのなかには王奕の記憶もあれば、王天君の記憶、伏羲の記憶もある。だがのう、公主。一番あざやかなのは、太公望の記憶なのだ」
また桃を口に放り込んで彼は言う。
「わかっておるよ」
そういって公主も一口桃をかじる。
太公望が無類の桃好きになったのは、崑崙に入山してからだという。羌族討伐を生き残り、入山するまで何も食べず腹を空かしていた太公望に崑崙で初めて出された食事が桃だったのだ。
それが伏羲になっても残っているのだから、そういうことなのだろう。
「して、太公望。おぬし、何故戻ってきたのじゃ?仙桃とて採れるのであろう。」
「おぬしに会いに来た。それだけでは足りぬか?」
「そういうわけではないが・・」
珍しく戸惑いを見せる公主から、蓬莱に広がる夜空へ目を移す。
「月を見ようと思ってのう。」
「人間界におるとき、時折思っておったのだ。そういえばわしは蓬莱で月を見ることがなかった。蓬莱でも月は出るか、人間界や仙界、地球のように見えるのか、それともまた違う月か、とのう。」
「・・・それならそうと、もっと前に来てもよさそうなものを。」
「だから言ったであろう?栽培にいそがしかったのだ。それに」
ふと彼が言いよどむ。
「はじめの年に出来た豊満はおぬしと食べる。そう決めておったのだ・・みなまで言わすな、だあほ」
公主は一瞬きょとん、として、またいつもの微笑みに戻った。
「そうか。すまぬな。」
「うむ」
「とても美味じゃ。ありがとう。」
そう言うと彼はすこし照れたようで、蓬莱に浮かぶ月を探しはじめた。
「月はみえぬのかのう」
「月は・・ほら、あそこじゃ」
「おお。なんだ人間界より小さいではないか。・・・だがこれはこれでいいものよのう」
「そうじゃのう。・・また、見にくるがよい」
「うむ」
「また、豊満の実る頃」
どちらともなく、そういうことにした。
それまで、しばらくは蓬莱にとどまって居たいものだ。
太公望を見送った公主は、小皿と串を手に取った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
太公望と竜吉公主の関係が好きです。
太公望にとって他の仲間とは少し違う感覚で話せる相手だといいなあと。
この話を読む限り酒飲んでるというよりは茶飲み友達ですが。笑
恋愛と呼べるものではないけど情がある、尊重がある、そういう、なんかいい関係、だと思ってます。勝手に。
蓬莱夜曲・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「酒宴じゃ、公主。」
「酒宴?」
封神計画が「終わり」を告げて、もう何年経ったかもわからなくなった。かつて共に蓬莱に来た仙道の中にも、神界へ旅立った者が、何人かいる。わが身がそこへ行くのはあとどれほどのことか、などと竜吉公主がとめどなく考えていると、蓬莱のあらゆるところで「お尋ね者」と書かれた顔が目の前に現れた。そしてその顔の持ち主は、お尋ね者などと呼ばれている事実を知ってか知らずか、そう言ったのである。
「・・・久しいのう。どうしたのじゃ、急に」
「ほれ」
ぐい、と彼が差し出した手を見れば、豊満と書かれた桃の入った小さい籠。
「…これは?口止め料かえ?」
「ただ酒宴をしようというだけで、そんなわけなかろう」
「…」
真意が読めずに彼の眼を見るが、彼の眼は相変わらず茫洋としているだけだ。心なしか、その色は昔より闇に近づいている気がする。それは彼がもとからの「太公望」ではなくなったからだろうか。
「…待っておれ。」
奥から小刀を出し、するすると桃を剥いていく。 種をとり、白磁の小皿に8等分して盛り付ける。 仕上げに銀の小串を2本。
「これでは、酒とは思えんではないか」
いつも丸かじりしている彼には、物足りなく感じるようだ。
「これでよいじゃろ。崑崙の洞よりは手狭じゃが、まあここなら見つかることもないであろ。ゆっくりしてゆくがよい」
「む。かたじけないのう。では、始めるとするか」
そういって伏羲は洞の入口にどかっと座り、さっそく桃を何切れか串刺しにして口に放り込む。
公主もとなりに腰掛け、桃の切れ端をかじる。
まくまくと桃を食らう太公望。彼の桃好きは仙界で会ってからというもの一向に変わる気配がない。
「・・おぬし、よく飽きぬな。まさか、計画が終わってからも桃を食べて酔っているのではあるまいのう?・・・仙桃は、下界では採れぬと聞いたがのう」
また次の桃を放り込もうとした手をとめて、太公望はにやりと笑った。
「ふふ。実はのう。仙桃の種を品種改良して、老子の住んでおった桃源郷で栽培するのに成功したのだ!今ではこのとーり、100年に一度とよばれる豊満まで作れる腕前じゃ!かーっかっかっ」
・・・成る程、そういえば計画も100年ほど前だったかもしれない。その間彼は緻密に張り巡らされた捜索網をかいくぐり、仙桃栽培に精を出していたというわけか。あきれないでもないが、とすると、
「この豊満は、人間界で初めて採れた豊満、という訳じゃな」
「うむ」
そうやって答える彼の顔はいつになく自慢げである。計画の中で彼がそんな顔をしたことは、彼女の記憶の限り無かった。
「美味じゃのう」
「ふふふふ、そうであろう。秘訣はこの育毛ざ・・」
「ということはやはりおぬし、下界で毎日桃を食べては酔っ払っていたのじゃな」
「うっ・・・酒乱である訳もなし、良かろうが。封神計画の仕事の打ち上げじゃ打ち上げ」
「計画が終わってもう何度干支が回ったかのう?」
「そんなもん知らぬ、知らーぬ。 わしはわしの休みたい分だけ休むのだ。ゆくゆくは、老子のヤツの100倍の丈夫さと、快適さをもった怠惰スーツハイパーを開発し、究極の怠けを生み出すのだ!」
実は彼が酒を飲んで起こしたアクシデントの類はたびたび聞いた事があるが(たこになったり腹を下したり)、まあそこは気にしないでおこうか。仙桃も、体内で水に戻るのだ。
「全く、こちらでは教主が七転八倒しておるというのに。策のひとつでも授けてやればよいものを」
「いやだ」
「・・・相変わらず意地が悪いのう、太公望」
「意地が悪いのではない。子を突き落とす獅子のようだと言うのだ」
どうだかのう、と言おうとして、そういうことにしておくか、と公主は思い直した。
「ところで最近、人間界のほうはどうなのじゃ?蓬莱にいると、疎くなってしまうでのう」
ふと気になって聞いてみると、彼はすこし首を上に向けて答えた。
「そうだのう・・そろそろ、群雄割拠の時代が始まるであろうな」
「そうか。早いのう」
人の世のうつりかわりなど、自分達の体感時間からすればあっという間の出来事だ。
「・・最近よく、聞仲を思い出すのだ。あのときわしはあやつを老いたと言ったが、こんどはわしが老いたことになってしまった」
「ふふ、そうだのう」
「そこは笑いどころではないぞ!」
「そうは言うが、おぬし、最初の人ではなかったのかえ?」
「あ、そうであった」
「・・・今こうして話しておる太公望、おぬしはまだまだ、ひよっこじゃがのう」
「どういう意味だ、公主」
答えずに、ころころと公主は笑った。
「・・まあ、たしかにそうだ。わしのなかには王奕の記憶もあれば、王天君の記憶、伏羲の記憶もある。だがのう、公主。一番あざやかなのは、太公望の記憶なのだ」
また桃を口に放り込んで彼は言う。
「わかっておるよ」
そういって公主も一口桃をかじる。
太公望が無類の桃好きになったのは、崑崙に入山してからだという。羌族討伐を生き残り、入山するまで何も食べず腹を空かしていた太公望に崑崙で初めて出された食事が桃だったのだ。
それが伏羲になっても残っているのだから、そういうことなのだろう。
「して、太公望。おぬし、何故戻ってきたのじゃ?仙桃とて採れるのであろう。」
「おぬしに会いに来た。それだけでは足りぬか?」
「そういうわけではないが・・」
珍しく戸惑いを見せる公主から、蓬莱に広がる夜空へ目を移す。
「月を見ようと思ってのう。」
「人間界におるとき、時折思っておったのだ。そういえばわしは蓬莱で月を見ることがなかった。蓬莱でも月は出るか、人間界や仙界、地球のように見えるのか、それともまた違う月か、とのう。」
「・・・それならそうと、もっと前に来てもよさそうなものを。」
「だから言ったであろう?栽培にいそがしかったのだ。それに」
ふと彼が言いよどむ。
「はじめの年に出来た豊満はおぬしと食べる。そう決めておったのだ・・みなまで言わすな、だあほ」
公主は一瞬きょとん、として、またいつもの微笑みに戻った。
「そうか。すまぬな。」
「うむ」
「とても美味じゃ。ありがとう。」
そう言うと彼はすこし照れたようで、蓬莱に浮かぶ月を探しはじめた。
「月はみえぬのかのう」
「月は・・ほら、あそこじゃ」
「おお。なんだ人間界より小さいではないか。・・・だがこれはこれでいいものよのう」
「そうじゃのう。・・また、見にくるがよい」
「うむ」
「また、豊満の実る頃」
どちらともなく、そういうことにした。
それまで、しばらくは蓬莱にとどまって居たいものだ。
太公望を見送った公主は、小皿と串を手に取った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
太公望と竜吉公主の関係が好きです。
太公望にとって他の仲間とは少し違う感覚で話せる相手だといいなあと。
この話を読む限り酒飲んでるというよりは茶飲み友達ですが。笑
恋愛と呼べるものではないけど情がある、尊重がある、そういう、なんかいい関係、だと思ってます。勝手に。
「酒宴じゃ、公主。」
「酒宴?」
封神計画が「終わり」を告げて、もう何年経ったかもわからなくなった。かつて共に蓬莱に来た仙道の中にも、神界へ旅立った者が、何人かいる。わが身がそこへ行くのはあとどれほどのことか、などと竜吉公主がとめどなく考えていると、蓬莱のあらゆるところで「お尋ね者」と書かれた顔が目の前に現れた。そしてその顔の持ち主は、お尋ね者などと呼ばれている事実を知ってか知らずか、そう言ったのである。
「・・・久しいのう。どうしたのじゃ、急に」
「ほれ」
ぐい、と彼が差し出した手を見れば、豊満と書かれた桃の入った小さい籠。
「…これは?口止め料かえ?」
「ただ酒宴をしようというだけで、そんなわけなかろう」
「…」
真意が読めずに彼の眼を見るが、彼の眼は相変わらず茫洋としているだけだ。心なしか、その色は昔より闇に近づいている気がする。それは彼がもとからの「太公望」ではなくなったからだろうか。
「…待っておれ。」
奥から小刀を出し、するすると桃を剥いていく。 種をとり、白磁の小皿に8等分して盛り付ける。 仕上げに銀の小串を2本。
「これでは、酒とは思えんではないか」
いつも丸かじりしている彼には、物足りなく感じるようだ。
「これでよいじゃろ。崑崙の洞よりは手狭じゃが、まあここなら見つかることもないであろ。ゆっくりしてゆくがよい」
「む。かたじけないのう。では、始めるとするか」
そういって伏羲は洞の入口にどかっと座り、さっそく桃を何切れか串刺しにして口に放り込む。
公主もとなりに腰掛け、桃の切れ端をかじる。
まくまくと桃を食らう太公望。彼の桃好きは仙界で会ってからというもの一向に変わる気配がない。
「・・おぬし、よく飽きぬな。まさか、計画が終わってからも桃を食べて酔っているのではあるまいのう?・・・仙桃は、下界では採れぬと聞いたがのう」
また次の桃を放り込もうとした手をとめて、太公望はにやりと笑った。
「ふふ。実はのう。仙桃の種を品種改良して、老子の住んでおった桃源郷で栽培するのに成功したのだ!今ではこのとーり、100年に一度とよばれる豊満まで作れる腕前じゃ!かーっかっかっ」
・・・成る程、そういえば計画も100年ほど前だったかもしれない。その間彼は緻密に張り巡らされた捜索網をかいくぐり、仙桃栽培に精を出していたというわけか。あきれないでもないが、とすると、
「この豊満は、人間界で初めて採れた豊満、という訳じゃな」
「うむ」
そうやって答える彼の顔はいつになく自慢げである。計画の中で彼がそんな顔をしたことは、彼女の記憶の限り無かった。
「美味じゃのう」
「ふふふふ、そうであろう。秘訣はこの育毛ざ・・」
「ということはやはりおぬし、下界で毎日桃を食べては酔っ払っていたのじゃな」
「うっ・・・酒乱である訳もなし、良かろうが。封神計画の仕事の打ち上げじゃ打ち上げ」
「計画が終わってもう何度干支が回ったかのう?」
「そんなもん知らぬ、知らーぬ。 わしはわしの休みたい分だけ休むのだ。ゆくゆくは、老子のヤツの100倍の丈夫さと、快適さをもった怠惰スーツハイパーを開発し、究極の怠けを生み出すのだ!」
実は彼が酒を飲んで起こしたアクシデントの類はたびたび聞いた事があるが(たこになったり腹を下したり)、まあそこは気にしないでおこうか。仙桃も、体内で水に戻るのだ。
「全く、こちらでは教主が七転八倒しておるというのに。策のひとつでも授けてやればよいものを」
「いやだ」
「・・・相変わらず意地が悪いのう、太公望」
「意地が悪いのではない。子を突き落とす獅子のようだと言うのだ」
どうだかのう、と言おうとして、そういうことにしておくか、と公主は思い直した。
「ところで最近、人間界のほうはどうなのじゃ?蓬莱にいると、疎くなってしまうでのう」
ふと気になって聞いてみると、彼はすこし首を上に向けて答えた。
「そうだのう・・そろそろ、群雄割拠の時代が始まるであろうな」
「そうか。早いのう」
人の世のうつりかわりなど、自分達の体感時間からすればあっという間の出来事だ。
「・・最近よく、聞仲を思い出すのだ。あのときわしはあやつを老いたと言ったが、こんどはわしが老いたことになってしまった」
「ふふ、そうだのう」
「そこは笑いどころではないぞ!」
「そうは言うが、おぬし、最初の人ではなかったのかえ?」
「あ、そうであった」
「・・・今こうして話しておる太公望、おぬしはまだまだ、ひよっこじゃがのう」
「どういう意味だ、公主」
答えずに、ころころと公主は笑った。
「・・まあ、たしかにそうだ。わしのなかには王奕の記憶もあれば、王天君の記憶、伏羲の記憶もある。だがのう、公主。一番あざやかなのは、太公望の記憶なのだ」
また桃を口に放り込んで彼は言う。
「わかっておるよ」
そういって公主も一口桃をかじる。
太公望が無類の桃好きになったのは、崑崙に入山してからだという。羌族討伐を生き残り、入山するまで何も食べず腹を空かしていた太公望に崑崙で初めて出された食事が桃だったのだ。
それが伏羲になっても残っているのだから、そういうことなのだろう。
「して、太公望。おぬし、何故戻ってきたのじゃ?仙桃とて採れるのであろう。」
「おぬしに会いに来た。それだけでは足りぬか?」
「そういうわけではないが・・」
珍しく戸惑いを見せる公主から、蓬莱に広がる夜空へ目を移す。
「月を見ようと思ってのう。」
「人間界におるとき、時折思っておったのだ。そういえばわしは蓬莱で月を見ることがなかった。蓬莱でも月は出るか、人間界や仙界、地球のように見えるのか、それともまた違う月か、とのう。」
「・・・それならそうと、もっと前に来てもよさそうなものを。」
「だから言ったであろう?栽培にいそがしかったのだ。それに」
ふと彼が言いよどむ。
「はじめの年に出来た豊満はおぬしと食べる。そう決めておったのだ・・みなまで言わすな、だあほ」
公主は一瞬きょとん、として、またいつもの微笑みに戻った。
「そうか。すまぬな。」
「うむ」
「とても美味じゃ。ありがとう。」
そう言うと彼はすこし照れたようで、蓬莱に浮かぶ月を探しはじめた。
「月はみえぬのかのう」
「月は・・ほら、あそこじゃ」
「おお。なんだ人間界より小さいではないか。・・・だがこれはこれでいいものよのう」
「そうじゃのう。・・また、見にくるがよい」
「うむ」
「また、豊満の実る頃」
どちらともなく、そういうことにした。
それまで、しばらくは蓬莱にとどまって居たいものだ。
太公望を見送った公主は、小皿と串を手に取った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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